2017-09-15

腸管出血性大腸菌 O157 について

 今回は腸管出血性大腸菌 O157 について,詳しく解説したいと思います。

【O157とは?】
 わが国では O157 (オー157) という呼び名がすっかり定着してしまったが,正しくは腸管出血性大腸菌 (enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC) O157 である。O157 は血清型とよばれるもので,言わば大腸菌の通し番号に相当する。

 腸管出血性大腸菌 (EHEC) は,ベロ毒素を産生する大腸菌であり,本毒素の有無は感染症法における確定診断の目安になっている。ベロ毒素は本菌の主要な病原因子として機能している。


EHECはどのようにして感染拡大するのか?
 EHECの最初の分離報告例は 1977 年に遡るが,本菌が広く知られるようになったのは,1982 年に米国オレゴン州とミシガン州で同時に起きた集団食中毒事件においてである。これらの州は 3000 キロも離れていたが,この事例では同じチェーン店のハンバーガーを食べたことに起因していた。47 名の食中毒患者を出し,患者糞便よりEHEC O157が検出された。1993 年にはシアトル近郊でハンバーガーによる食中毒事件が再び発生し,700 人以上もの EHEC 感染者をだした。シアトルでの食中毒事例は,EHEC に汚染されたハンバーガーのパティがチェーン店の大規模流通網にのって飛び火的に拡散した。

【日本におけるEHEC感染】
 わが国での EHEC 感染による最初の死亡例は,1990 年に埼玉県の幼稚園で起きた集団感染である。二次感染も含めて 200 名の感染者を出し,2 名の園児が EHEC 感染で死亡した。園内のトイレタンクの亀裂から漏れだした汚水が,飲料用井戸水に混入したことで感染が起きたと推察されている。

 それから 6 年後の 1996 年には,世界でも類を見ないほどの大規模な EHEC 食中毒事件が勃発した。同年 7 月に大阪府堺市の小学校給食から EHEC 感染が発生し,二次感染も含めて 1 万人以上の感染者を出した。全国での散発事例を含めると,1996 年だけで,1 万 8 千人もの EHEC 感染者を出し 12 名が死亡している。EHEC 感染はその後下火になったが,感染患者数 (無症候性キャリアを含む) は,年間 3000 人から 4000 人を数えている。

 1996 年の大流行以来,EHEC はわが国に確実に土着して散発感染を繰り返しており,特に牛生肉の喫食による死亡例はあとを絶たない。 2011 年 4 月,富山県の焼き肉チェーン店で,血清型 O111 を主とする EHEC の集団食中毒事件が発生し 4 名の死亡者を出している。この事例ではユッケが原因食材とされた。厚生労働省は牛生レバー (肝臓) の飲食店での提供を,食品衛生法で禁止した。

【EHECの自然宿主】
 EHEC は一般にウシが自然界における保有動物 (自然宿主) である。経口よりウシ体内に入った EHEC は,大腸に定着後,増殖を繰り返し,やがては糞便とともに環境中へ排出される。

 推定される EHEC 菌量は糞便 1 グラムあたり 100 から 100 万個である。ウシの糞便量は 1 日あたり約 30 キロにもなるので,単純計算しても,ウシ 1 頭あたり 300 万から 300 億個の EHEC を毎日排出し続けることになる。

 糞便による土壌汚染が進展すれば,牧場周辺の農作物にも大きな影響を及ぼすことになる。レタスやキャベツなど生野菜を使用したサラダで EHEC 感染が起きるのは,実はこのような背景がある。

EHECの自然宿主と感染経路(もっとよくわかる!感染症より改変引用)

【今回のO157食中毒について】
 群馬県と埼玉県にある同じ系列店の総菜を食べた 22 人が O157 に感染した事例では,地理的に離れた店舗で食中毒がおきたので,たとえば,無症候性キャリアの店員から感染した可能性は低い。

 当初,上記系列店にポテトサラダを卸していた惣菜加工工場での O157 汚染が疑われたが,O157 は検出されなかった。

 ふりだしにもどると,O157 に感染した患者 9 人は,前橋市,高崎市,玉村町に住む 1 歳から 84 歳の男女であった。そのうちの 4 人は 11 日に販売されたポテトサラダを食べており,ほかの 5 人はコールスローサラダ,マリネなど数種のサラダ類を食べていた。(出典:産経ニュース http://www.sankei.com/smp/life/news/170831/lif1708310010-s1.html)

 このことからも,ポテトサラダの製造元による O157 汚染の可能性は低い。

 その後の調査で,惣菜系列店の調理室の衛生管理に問題と指摘を受けていたことが,判明。また,「いろいろな人が同じトングを使っていて,皿のふたや覆いもありませんでした」との報告もあった。(出典:NHK NEWS WEB http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170914/k10011139281000.html?utm_int=detail_contents_news-related-manual_001)

 これらをふまえると,何らかの食材に混入していた O157 が真夏の菌が生育しやすい環境で,おそらく店内で増殖した可能性が考えられる。O157 は 10 菌数で感染することがあり,注意が必要である。

 O157 は 75℃,1 分以上の加熱で死滅する。今回,O157 による食中毒が考えにくい加熱調理の惣菜で感染したことから,トングの使い回しなどで菌が拡散したと考えられる。

【感染源はどこか?】
 O157 の自然宿主はウシである。牧場のまわりは,O157 に汚染されている可能性がある。また,ふれあい牧場でウシに触れた子供が O157 に感染した例がある。ウシは O157 に感染しても,ほとんどの場合,無症状である。なので,健康そうに見えるウシが O157 に汚染されている可能性がある。

 話を戻すと,牧場周辺から採れる生野菜や果物なども O157 に汚染されている可能性がある。現時点では食肉が汚染源である可能性も否定できないが,上記系列店での野菜・果物の共通の仕入れ業者などについても,感染源の可能性を否定しないで検査をすべきであろう。

 事実,米国ではサラダバーでのロメインレタスによる感染事例があり,一つのレタス生産業者が感染源であった。生産グループが大きければ広域に拡散する可能性があり,感染源の特定を急ぐ必要がある。

 亡くなられた方のご冥福をお祈り致します。
 
 このブログの記事は,拙著「もっとよくわかる!感染症」(羊土社)を一部引用しております。

 厚労省の O157 関連の HP はコチラになります。